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【Interview】データサイエンティストの考えるこれからの医療

目次

現在の医療データにおける課題と解決策

これまで「医療データ」については数多く取り上げて参りました。今回は、より母子手帳や健康診断データと言った自分たちにより馴染みの深い医療データの接続やそれらの統一化について、(株)データフォーシーズ副社長の坂本さん、プロジェクトリーダーの藍原さんにご協力いただき、AILab運営事務局からのインタビュー形式でひも解いていきます。


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本日はどうぞよろしくお願いします。 早速ですが、医療データの課題については、これまでもAILabサイトのブログの中で取り上げてきていると思います。改めてですが、国内で挙げられる医療データ関連の課題って何が挙げられますか?

まず思い当たる医療データの課題において、遺伝子データやゲノムデータ関連の話で考えると、そもそもそういう取り組み自体が日本は海外に対して遅れています。そのため、まだまだ患者のゲノムデータを収集してそこから癌の治療選択をする、と言うことまで対応できていません。これらが、医師や癌専門の病院、日本の癌治療が抱えている大きな課題だと感じています。

確かにそれはかなり大きな医療データの課題ですね。。 我々D4cが医療データ関連の課題解決に取り組める範囲で考えうる課題ではどんなことが考えられるのでしょうか。

もう少し的を絞って言いますと、医療データの中でも「レセプトデータ」が挙げられます。レセプトデータは、ケガや病気などに対してどのくらいの医療費が充てられているかなどが分かる医療データです。 レセプトデータを使って一人一人の患者の病気の経歴や医療費がどのくらいかかっているかなどの分析を通して、健保組合や自治体のご支援をしています。 また、生活習慣病になりそうな可能性のある方をレセプトデータで予兆を検知しで保健指導して重傷化を予防するビジネスサービスなどもしています。 ただ、そのレセプトデータは加入保険またぎでは医療データが繋がっていないと言う事が大きな課題です。レセプトの場合、今まで会社に勤めていた方は健保に所属していますが、その会社を退職すると国保に移動します。同一人物でも健保と国保が分かれるとID、つまり医療データが繋がらないのです。国保加入者は最初から体の状態が悪い状態で加入してくる、と言うことになります。国保だけの医療データで分析してももうすでに医療費がかかっている、となります。

レセプトデータベースでもそうですが、個人のパーソナルヘルスレコードのアプリでどこの病院を受けて、というような病院間同士、アプリ間同士でも繋がっていない事もありますので、IDの連携はとても大きな課題なのです。 医師に対しても医療データのID連携出来ていない事は大きな課題になります。

具体的に教えて頂けますか?

日本の医師は内科医や皮膚科の様な専門医が多い為、専門外の対応ができないと言われています。しかし、コロナ感染が増えている為に医師それぞれの専門外であるコロナの診断もしなければいけない、と言う課題もあるのです

課題だらけと言う印象ですね。。 そうなりますと、DXと言うよりは日本の医師の育成の仕方での課題になりますね。

その通りです。我々が解決のために取り組める観点で話すと、今まで医療系のヘルスケアの分析をやってきた中で培ったスキルで、AIを使った医療診断支援システムを作っていこうと考えています。 例えばですが、病院に行くとまず何をしますか?

問診票に名前や症状を記入します。あれはなかなか手間がかかってしまいます。反面、記入した問診票はそのままファイリングされてしまい、結局診断時に医師に同じことを伝えると言う二度手間が発生しがちのように感じます。

そうかもしれませんね。しかし、それらはDXで解決出来る事なのです。

とても興味深いですね。具体的にご説明をお願いできますか?

はい。患者さんに対して、「Personal Health Record」と言うアプリを作るのです。 そこで問診票のアプリを作成し過去の疾患情報等含め具合が悪い時に問診登録する仕組みを作ろう、と言う事です。 そして、「この症状だったら、ここの病院を受診して」というようなレコメンド機能もつけてあげれば、そこの病院に行くことができます。もちろん事前に登録した問診票の医療データは病院に連携される様なシステムにするから患者さん側での問診票記入と先生へ口頭説明する手間は省ける、と言う事になります。

なるほどですね。そうすれば、病院側はAIを使って医療データとして事前に登録されている問診情報を見れる事になり、それを基に「このひとはこの疾患の可能性がある」と予想ができるのですね。

その通りです。その様なAIを使った診断支援を作る仕組みに取り組んでいるのです。診断支援がある事により、専門外であってもレコメンドが出てくるので診断ミスの軽減ができたり、経験が浅くても一般的なこれまでの病気の治験からレコメンドを参考にすることが出来ます。そういう仕組みを地域医療の均一化や標準化含め全国に広げていければと言う取り組みを考えています。

かなり壮大な取り組みですね。でも、そういう取り組みをするとなりますと、個人の医療データをどの様に扱っていくかと言う課題が出てきますね。 最初にご説明くださいましたが、患者さんの医療データはレセプトデータや健保の健診データなど分断しているのですよね。それらを一本化して将来的に患者さんに合った治療を提示していくのは難しいのではないでしょうか?

仰る通り、一生涯での医療データはバラバラである為接続されていないのです。 生まれてすぐは母子手帳の情報記録媒体で記録されていますが、母子手帳の医療データは保育園や幼稚園に入った段階でほとんど遮断されてしまいます。そして、保育園・幼稚園の医療データは小学校には接続されず小学校の健診データ、そして、中学校、高校、大学、それぞれで分断されてしまいます。 つまり、それぞれのID自体が繋がっていないと言う事になります。 大人になってからは最初に説明した通り、国保と社会保険の医療データは繋がっていない‥と言う感じでやはり分断されてしまいます。 厚労省で、社会保険と国民健康保険の診療データを集めてデータベースを作った様ですが、残念ながら動いていないのです。

なるほど、それを動かそうとすると個人情報保護法に引っ掛かってしまう事になるのですね。

その通りです。本人の同意が取れていない、と言う事になりますからね。 今作ろうとしているPINOKO(Patient Information Network Knowledge AI)と言うシステムは、毎回毎回個別アプリを通して本人の同意を取ろう、という形で進めようとしています。今までは、何か新しい事をを始める時に最初に同意書を取り、それで終わりでした。例えばそれを違う形で解析していいですかとなった時、厚生労働省で蓄積されているものをその目的では同意が取られていないので外に出せません、と言う感じで進められないのです。しかし毎回毎回同意を取っていればそれが必要ありません。そこのところが出来ていないのでまとまった医療データが使えないと言う事になります。

PINOKO、、かわいらしい名前ですね。 仮に医療データが繋げられれば年代・性別含め、こういう人がこんな病気で次はこんな病気で、、など一本化してれば予測しやすいのでしょうか?

PINOKOシステムを通して医療データを連結させて個人個人の医療データを持って医療機関に提供しようと考えています。それが出来れば色々とすごく楽になると思います。

確かにそれであれば状況連携がかなり楽になりますね。でも、PINOKOシステムは医療データをどう連結させていくのでしょうか?

個人の携帯電話で、なにかモノを購入して決済する時にMNP(Mobile Number Portability)にタッチしてお金の精算ができるシステムがありますよね。それと同じ様に医療機関にかかった時に医療機関の窓口でタッチしてそこで「私の医療データを医療機関に提供します」と同意を頂くのです。そして、先生の診察を受ける時にも先生の所でもタッチすると先生の診断も「診断情報をもらいますね」と同意をしていく形ができるんですね。

なるほど!それは簡単ですしスムーズですね。もっといろいろ申し込む手続きがあるとイメージしていました。

そうです、とても簡単に手続きできるのです。これによって、先程説明した同意の問題はクリアできます。

本人の同意が取れていないと医療データが取れないと言うが、包括同意ではそれをカバーできなかったのでしょうか?

確かにこれまで包括同意が多用されてきたわけですが、包括同意の際に「それに対して私は同意していなかった」と言う意見が出てきた事が問題なのです。 例えば論文発表した時に同意が取れているか否かって言うのは重要な因子になっています。 だから紙で同意を得ようとすると包括同意でしか取れず、その都度その都度のものでしかないのです。 診療を受けている中で、この先生に説明するが、この先生にはこの疾患は説明したくないって言うのも起きるかもしれないですね。でも本来は薬の兼ね合いもあるから両方必要で、そう言った問題があって包括同意では難しい部分があるのです。

そもそも本人の同意が取れて無いと医療データは使ってはいけない、と言うのは今も昔も変わっていないのでしょうか?

それは変わりませんね。当たり前ですが、医療職には守秘義務が全部ついている。本来そこでは医療データが漏洩する事は有り得ません。個人情報保護法の中で更にそれが強くなっているので、そう言った形での動きが必要になります。

既存のマイナンバーとか医療関連のIDを使う選択肢はあるのでしょうか?

マイナンバーにしても住基カードにしても、唯一無二ではありません。 つまり、その方の番号は絶対それしかない、と言うものではないのです。

マイナンバーと医療データを紐づければいいのでは、と思っていたのですが、それはユニークではないから、現実的な解ではないという事になりますか?

仮にそれを一緒にした時、そのナンバーを誰が管理するのかが問題になります。 マイナンバーは総務省の管轄ですが、それと医療データを総務省が一括して管理出来るのか、と言う問題にになりますね。

つまりそれは厚労省の管轄ということになりますか?

厚労省ひとくくりの管轄とも言い難いのです。保険証は国民健康保険もあれば社会保険、共済組合もあり主体がバラバラの為、全ての同意を取るのは大変な作業になります。

確かにそうですね。ではこれはもう叶わないという事になりますか?

いえ、法律を改正して強制的にやれば出来ない事もないと思いますが、それをやって総務省が管理するとなった時、その医療データひとつでもが漏洩すると全ての医療データが数珠つなぎに漏洩することになってしまいます。 そもそも、IDがひとつでなければいけない、と言うわけではないのです。 今回のPINOKOシステムでは一人の方がいくつもIDを持っているがそのIDを結合させてあげればいい、と言うだけの話になります。 また、これは家族単位でも持って置けるシステムになっています。と言うのも、PINOKOプロジェクトは、1台のスマートフォンに複数の家族の情報を登録でき、運用することができるので、親が子供のIDを登録し、家族のヘルスケア情報を蓄積できます。将来的にお子さんが自分のスマートフォンを持った際には、そのスマートフォンに医療データが連携されるので、継続的にそのIDが繋がっていくことで患者さん生涯の統合された医療データが形成されていくことになります。

“同意”と言う観点でお聞きしたいのですが、携帯でタッチすると言う事は自分で診断される事に対して納得・同意しているということですか?

その通りです。

では、そこで集めた医療データはどの様に利活用するのか決まっているのでしょうか?

利活用する方法は2つあります。 1つは、持っている個人に返すという仕組み、もう1つはレコメンドと言う形で、具合が悪くなった時に医療データとして問診票アプリに入れてもらう、そうすると「ここら辺の医療機関を受診して」と言うレコメンドが出てくる、と言う仕組みに利活用されます。 もちろん子供であってもそれが全部適用されるので、それが出来れば世の中便利になります。

子供にも適用されるのですね。では、急に真夜中に赤ちゃんが体調崩した時にそのアプリに症状当の医療データなどを登録すれば、緊急で病院へ行くべきか翌朝でいいのか等もレコメンドしてくれる、と言うわけですか?

そういうことになります。もし緊急であれば「至急医療機関に連絡取って」などのレコメンドが出てくると言う事になります。

それは小さいお子さんを持つお母さん方にとっても便利になりますね。

そうなると、このシステムは、「次世代医療基盤法(医療機関から認定事業者への医療情報の提供、認定事業者から利活用者への匿名加工医療情報の提供)」が関係ある、と言う事になるのでしょうか。 D4cが医療データを持ち合わせるわけではないので、そこは関係ないですね。

PINOKOシステムは、送信先である医療機関が送信主の医療データを確認できればいいというフローだから、我々が把握する必要はありません。我々の目に見えないところでやり取りしている、と言う感じになりますね。 全ての医療データをひとつにするということは全ての仕組みが統一される必要があります。北海道から沖縄までの医療機関全てがその医療データが連携されたIDを使う、と。ですが、そこまでやりくりするのは膨大過ぎる時間がかかってしまいますし、セキュリティ面でも危険が生じてしまいます。その為、こちら側でそれを読み取ってあげて、A病院のこのナンバーの人はこの人です、と言う位置づけをして医療データを読み取ってもらう、と言う事になります。

と言う事は、ガラパゴス化されている医療データのIDを使うのではなく、PINOKOシステムでタッチする事により患者さんに医療データを繋げてもらうと言う感覚になるのでしょうか。

そうですね。例えば、交通系ICカードって所有者の交通履歴が内包されていますね。その所有者の持っているICカードで地方行ってもチャージする金額の中でやりくりできる、って言うのは発想が近いと思うのですが、想像できますか?

なるほど、かなり現実的にイメージできました。 では、例えば、ワクチン接種した、と言う医療データもPINOKOシステムに入れてそれを空港の搭乗口で見せたら飛行機に乗れる、というようなルートも可能になるのでしょうか?

確かにそれも二次利用としては将来的に考えられるかもしれません。

将来的にPINOKOをどの様に役立てたいと考えているのでしょうか?

PINOKOのような地域に根付いたシステムが広がることにより、生涯の医療データの解析を通した疾病予防や疾病治療に役立てられると考えています。 これまで都道府県や市区町村及び公的医療機関は、一方的に国に医療データを報告していましたが、国からは集積された医療データを地域の医療関係者が使いやすい形でのフィードバックがなされていませんでした。特に診療のエビデンス情報の提供は非常に遅れた現状です。 公益財団法人日本医療機能評価機構においても、医療事故情報収集等事業(厚生労働省補助事業)において収集された事例を基に、医療事故の発生予防、再発防止のために作成されたものの、診療時に注意喚起を行うには至っていないのです。 命にかかわる医療データは、官と民の仕事と縦割りするのではなく、患者である国民が安心して生活できるように情報が提供されるシステム作りが必要だと考えています。

ありがとうございました。 この熱い想いが実となり、我々のビジョンとして掲げている「情報革命を牽引するエバンジェリストであり続ける」の裏付けとなる様、引き続き医療データに関する課題解決に取り組み精進していく必要がありますね。

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  • Tadashi Sakamoto

    坂本 唯史

    株式会社データフォーシーズ 取締役副社長

    大学卒業後、システム開発会社に入社するも、1990年代当時は黎明期であったデータ解析のプロジェクトに関わる事となり、以来、20年以上にわたり当分野で活躍してきた。まだ「データサイエンス」という言葉すら無かった2005年、データフォーシーズの設立に関わり、以来、一貫して経営にも関わりつつ、プロジェクト推進も行っているデータフォーシーズのトップデータサイエンティスト。社内にD4c AI Labを立ち上げ、その主幹を務めている。広島市立大学でのデータサイエンス特別講義をはじめセミナー/講演実績も多数。

  • Masakazu Aihara

    藍原 雅一

    株式会社データフォーシーズ シニアコンサルタント/アナリスト

    これまでの経歴において、厚生労働省厚生事務官として医療/健康に関わる様々なプロジェクト(日本医療機能評価機構設置/ナースセンターシステム開発等)を歴任。 自治医科大学等複数の医療系大学での教育・研究活動や会社の立ち上げを行い、その後、データフォーシーズに合流。 医療業界におけるAI開発・研究、医業経営コンサルタント、講師として活躍。現在、株式会社データフォーシーズにてPINOKO プロジェクトの企画~プロジェクトリーダーを務める。 これまでの経歴の中で、日本でもトップクラスのAI技術、研究開発実績を有している。