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天候気象情報を活用したウェザーマーケティングで需要を先取り!!

目次

 人の感情や行動は、意外に天気に左右されることがあるものです。「今日は暑いな、何か冷たいものが飲みたいな。」とか「アイスクリームが食べたいな。」と思ったり、「明日は天気が良いらしいから、ドライブでもしようか」と予定を決めたりした経験は誰にでもあることでしょう。
 このように、天気の良し悪しや、気温の高低などの天候によって、人々の行動が変化することに着目し、その先の天候の変化を先取りすることで、さまざまな商品・サービスの需要予測や人々の行動予測をし、売上向上などビジネスに有効活用しようというのがウェザーマーケティングです。

 

 また、天気はもちろん、気温や湿度がある種の商品の売上状況に影響を及ぼすことは以前から知られており、天候の変化を予測して商品の品揃えを変えたり、特定の商品の仕入れを増減させたりする、いわゆるウェザーマーチャンダイジングという考え方も小売業などでは注目されていました。
 そういう意味では、ウェザーマーケティングもウェザーマーチャンダイジングも、決して新しい概念ではありません。しかし、天候気象に関する予測精度の向上や、予測エリアの細分化、コンピューターの性能の向上やAIの発達などにより、分析がよりスピーディーに、かつ、より精緻になったことなどで、近年改めて注目されるようになってきているのです。

 本稿では、ウェザーマーケティングをどのようにビジネスに生かすことができるのかについて、天候気象データという外部データの有効活用という視点も含めて考察していくことにします。

ウェザーマーケティングの活用領域は、着実に広がっている

 「気温が〇〇度を超えるとアイスクリームの売上が急増する」、「気温が××度以下になると自動販売機のホットドリンクの売上が伸びる」など、気温の変化とある種の商品の売上の相関性はよく知られています。
 また、前述のような“その日の気象条件”ではなく、もっと長い期間(1カ月とか、3カ月とか)の気象の変化が、商品・サービスの売上に影響する事例としては、「7月の平均気温が2度上がると、エアコンの売上状況が1.5倍になる」といった統計データなどもよく聞かれます。
 このように、天候気象データと、商品・サービスの売上状況の相関関係性や、そもそも天候気象の状況が、消費者に一定の行動変容をもたらし得ることは明らかだったのです。
 それが最近になって、ウェザーマーケティングとして改めて注目されるようになってきた背景は、冒頭でも触れた通り、天気予報の精度がより高まってきたことと、予測の範囲が昔に比べれば、ピンポイントと言ってよいほどに細分化されたエリアで、ゲリラ豪雨などをはじめとした気象変化を予測できるようになったことと無縁ではありません。
 「気温が1度変化すると、××の売上が○○%増加する(減少する)」という相関性を明らかにすること自体は、気象データ(気温推移のデータ)と商品の売上実績データがあれば、分析することは可能です。
 しかし、そうした分析結果を、マーケティングやマーチャンダイジングなどビジネス的に活用しようとした場合には、“明日の気温はどうなのか”、“来月は平年に比べて気温が高いのか、低いのか”という、“その先の天候気象”がどうなるのか、という予測の精度が高まっていなければ、有効活用には至らないわけです。

 かつて日本では、天気予報を発表できるのは気象庁だけでしたが、規制緩和政策の一環で、1993年に気象業務法が大幅改正されるに伴って、気象庁以外の民間気象会社が独自に天気予報を発表できるようになりました(気象予報士の制度もこの時からです)。民間気象会社では、差別化の必要性から、予測の的中精度を競うようになったことに加えて、多様なサービス提供をはじめたことで、企業などが気象関連データをビジネスで活用しやすくなったことも、ウェザーマーケティングが実施しやすくなった背景にはあるでしょう。

 いずれにしろ、今日では、さまざまな業種・業態の企業が天候気象データを、マーケティングに活用する「ウェザーマーケティング」を積極的に取り入れています。
 たとえば、小売業においては、すでに触れた通り、天候の変化による需要予測が代表的で、その予測に基づいて商品/品揃え、ひいては在庫を最適化し、過剰な仕入れ・在庫による不良在庫問題や、過少仕入れ・在庫による販売チャンスロスを回避できます。
 同様に、食品メーカーなどにおいても、需要予測の精度が高まれば、過剰生産を防止するなど、生産計画を最適化できます。また飲料メーカーなどでは、自動販売機のホット/コールド飲料の入れ替えのタイミングを最適化することにも活用できます。

 ここ1~2年はコロナ禍で大きな影響を受けた、ホテルなどを含む観光サービスにおいても、天候の変化による集客などについて予測するなどの活用が可能です。さらに観光と関連するものとして、交通サービスなどのビジネスにおける売上予測などにも活用できます。
 アパレル業界などにおいても、季節性の高い商品(春夏物や秋冬物など)の需要予測と、それに基づく在庫の最適化、あるいはセールタイミングの選定など、活用余地は広がっているのです。

短期的な天候気象予測に基づいて需要予測するウェザーマーケティング

 ある百貨店では、1日単位の商品別売上情報と外部データとしての天候情報を組み合わせて分析することで、どのような気象条件の時に、どのような商品の売れ行きが、どう変化するのかを明らかにして、ウェザーマーケティング・ウェザーマーチャンダイジングに生かしています。
 すでに、気温が高くなるとアイスクリームの売上状況が伸びるという事例についてはお話しましたが、ここではより詳細な分析を行っています。
 具体的にいうと、その日の最高気温・平均気温・最高気温と最低気温の温度差などです。さらに、自社データとしては、アイスクリームの売上金額・売上数量などの売上状況だけでなく、催事の実施状況なども加味して分析します。
 自社データだけでは、何月何日はアイスクリームがこれだけ売れた、ということはわかりますし、その日にはこんな催事があって、お子様連れのお客様が多かった、ということはわかりますが、気温や天候との相関性などはわかるはずもありません。
 しかし、外部の気象データを入手できれば、「最高気温が○○度以上で、かつ最高気温と最低気温の温度差が△度以上ある場合で、日中の天気が晴天ならば、アイスクリームの売上は××%以上伸びる可能性がある。また子供向けの催事が行われていると、さらに××%程度の上乗せが期待できる」ということを導き出せるでしょう。
 こうした分析結果をナレッジとして、短期的な天気予報情報を入手できれば、「今度の日曜日は条件に合致するので、アイスクリームの売上が○○%伸びる可能性がある」ということがわかりますので、商品仕入れなどを最適化することで、販売チャンスロスを防ぐことが可能になるのです。

 また、スキンケア商品なども天候条件の影響を受けやすい商材だといえます。メインターゲットが女性層だということもあり、土日・祝日に売上が伸びる傾向があるなど、曜日などの影響が大きい商材ですが、天候の違いも売上に大きく影響するキー・ファクタ―になっています。
具体的にいえば、雨や曇りの日よりも晴天の日は、保湿・乾燥対策などのスキンケア商品の売上が伸びる傾向があります。また日差しが強い日には、紫外線対策をうたったスキンケア商品の売上が伸びるといった傾向も見て取れます。
 やはり、女性層の多くは、その日の天候によって、肌の乾燥などが気になり、保水・保湿・紫外線対策など、関連のスキンケア商品に手が伸びがちだということがデータ的にも明らかになりました。

 私たちデータフォーシーズでは、こうした分析結果に基づいて、天候気象との相関性の高い商品に関して、需要予測をモデル化するなど、ウェザーマーケティングの有効活用をサポートしています。
 百貨店などでは、取扱い商品のアイテム数は数万から数十万と膨大です。これまでは、それらの商品すべてについて日次の売上推移と、天候気象データを組み合わせて分析することは容易ではありませんでしたが、最近ではAIを活用することによって、精度の高い分析をスピーディーに実施することが可能になっています。
 なお、こうした分析と、それに基づくウェザーマーケティングの展開については、大手スーパーマーケットチェーンなどですでに導入されています。
さらには、こうした分析結果に基づいて、「こういう天気だったら、こういうターゲット層に対して、××商品を割引購入できるクーポンを配信する」といった、誘客のためのプロモーションに活用し、売上アップを目指す取り組みなども行われています。

中長期の外部トレンド情報なども活用したファッショントレンド予測モデル活用と、短期的な天候気象情報による売上変動も予測する

 アパレル業界などでは、もう少し長いスパンのトレンド情報データや、天候気象データを生かして、ファッショントレンドを定量化し、新商品を含む自社商品の販売予測モデルを構築して、商品生産・在庫を最適化しつつ、売上の極大化を目指すという取り組みが進んでいます。
 アイスクリームやスキンケア商品などと違い、今日の気温が今日の売上に直結するということは、アパレル業界においてはあまりありません。もちろん、そうした影響がまったくないということではなく、雨が降ったために客足が鈍る、あるいは急に気温が下がったのでコートなどの売上が伸びる、といったことは当然にあります。
 しかし、ここでは、もう少し長いスパンで季節・天気気象データを活用する事例としてアパレル業界を取り上げます。

 あるアパレルメーカーでは、SNSなどから、過去数年にわたって、ファッションに関するキーワードを収集・分析し、ファッションキーワードの推移(トレンドの変化)を定期観測しています。また同時にファッション誌やパリコレなどのコレクションのファッション画像データも大量に収集し、これらのデータを分析することで、次期のファッショントレンドを独自に予測するモデルを構築し活用しています。
 また、Googleトレンドなども活用して、ファッションキーワードが検索ワードとしてどう推移しているかを把握・分析することで、ファッションアイテムごとのトレンドの変化を把握し、予測モデルの精度を上げるためのプラスαの要素として活用しています。
 大きなトレンドとして、どんな色の、どんなアイテムがファッショントレンドとして売れ筋になり得るのかを予測した上で、実際の販売シーンにおいては、平均気温の推移が売上を分岐する大きな要因になり得る商材(アイテム)については、それを加味してセールなどの催事を展開するなど、緻密なウェザーマーケティングに生かしているのです。

気象データなどの外部データなしには、ビジネスに有用なウェザーマーケティングの実現はあり得ない

 今日、企業が事業を成長させるためには、データの利活用が不可欠であることは、折りに触れ、述べてきました。
 また、実際にデータを活用してマーケティングなどに活用するに際しては、自社データだけをどんなに精緻に分析したところで不十分であるということや、積極的に多様な外部データを活用することで、“森も木も”きちんと見えるようになるのだということも。

 本稿で取り上げたウェザーマーケティングは、まさに「自社データ」+「外部データ」の重要性を示す好例だったのではないかと思います。
 日々の天候気象データは、外部に頼らざるを得ないデータだといえます。近年ではいくつもの気象会社が天候気象に関するデータの提供サービスを行っており、こうしたデータの入手は比較的容易になっています。
 ぜひ、積極的に外部データを活用して、自社のビジネスをさらに深化させるべく、データサイエンスに取り組んでください。
 そして、もし、“データサイエンスの重要性は理解できたが、専門性をもった人的リソースやノウハウが不足している”というなら、ぜひデータフォーシーズにご相談ください。
 目的に応じた最適な外部データの選定はもちろん、ビジネスを加速させ得る最適なデータサイエンスの実現をサポートいたします。